保育士不足に陥る6つの原因と問題解決のカギについて

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国は待機児童問題の解消を目指し、H29年末までに『約40万人分』の保育の受け皿を確保することが、厚生労働省が出している「待機児童解消加速化プラン」により発表されていますが、そのためには『保育士の確保』が必要不可欠です。

しかし、保育士の有効求人倍率は平成26年1月には全国平均で『1.74倍』(東京都は約5倍)と高く、9割の都道府県で1倍を超えるほど、保育士不足が露呈しています。

実際、保育士は年々減少傾向にあり、厚生労働省の発表しているデータでは、保育士の資格を持っている人の約半数の『48%が保育士職種を希望しない』と意思表示するほどです。
hoikusikibousinai保育士資格は取得するまでとても大変で、養成校へ通うと費用もかかるので、誰でも簡単に取れる資格ではありません。

時間と費用をかけて取得した資格なのに、なぜ保育士として働きたくない人が多いのでしょうか?

この記事では、保育士不足の原因と、その解決策について考察していきます。
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保育士が不足する現状と考えられる6つの原因

保育士不足になる原因① 残業など勤務時間の長さ

保育士の仕事はどうしても残業が多くなりがちです。

まず保育室の片付けは、子ども達が帰ってからでないと手が付けられませんし、それ以外にも『月案・週案・日誌などの書類関係、部屋の壁面の準備、行事の組み立て・打ち合わせ、クラスだより製作、玩具・絵本の選定』など、保育所でないと出来ない事は沢山あります。

ですから、どうしても毎日1~2時間の残業が発生してしまい、行事前の長い時には4~5時間以上の残業も発生してしまうのです。

こうした時間外労働がたたり、体調を崩したり、結婚や家庭を持つ事が出来ない、円満な夫婦生活ができないと辞めていく保育士も多いです。


保育士不足になる原因② 保育観の違いなど人間関係の難しさ

保育士は資格職で、それぞれが自分の保育観を持ち、日々子どもにとって良い保育を考え実践しながら成長していきます。

しかしながら、その過程でどうしても保育観の合わない保育士同士が衝突したり、新人が現場で動けない事に苛立っていじめが始まるなど、余裕のない現場だからこその複雑な人間関係が存在します。

実際、保育士の離職の多くは人間関係によるトラブルだとも言います。

せっかく保育士を確保しても、保育士同士が仲が悪く辞職してしまう人も多いので、この悪循環をどうにかしない限り、保育士の確保は難しいでしょう。


保育士不足になる原因③ 保護者対応の大変さ、難しさ

近年では、『モンスターペアレンツ』という造語が作られるほど、保護者対応はかなり大変になっています。

モンスターペアレンツによる被害

  • 自分の子どもと合わないから退職または担任交代をして欲しい
  • クラスの流れを自分の子どものペースに合わせて欲しい
  • 保育士のSNSを見て、私生活が派手で心配
  • 悪口を言い触らされて、保護者達全員から距離を取られてしまう

驚くべき事に、最近では保育士の私生活に口を挟む保護者も増えているのです。

常に誰かに見られているような不安感や、プレッシャーの大きさから、保護者への対応に疲弊して辞めていく保育士も多いです。

参考記事:保育園や幼稚園におけるモンスターペアレントの対応と解決策


保育士不足になる原因④ 仕事に対するモチベーションが続かない

子どもが好きな人にとっては天職ですが、『昇給の遅さ、年休の少なさ、有休があっても現場の人数が足りずに取れない、給与平均が18万前後と安い』など、問題点も非常に多いです。

そのため、『頑張っているのに評価されない』と感じている保育士は多く、頑張ることに疲れてしまうと「フッ」と糸が切れたようにやる気が無くなってしまうのです。

モチベーションを保つには、やはり保育士の頑張りに対する評価が必要だと思います。

ですが、子どもたちから「ありがとう」と言われることはあっても、園や同じ立場の先生からはなかなか評価してもらえないことに悩む保育士も多いのです。

その結果、保育士ではない給与が労働に見合った他業種に流れてしまうのです。


保育士不足になる原因⑤ 休暇が少ない、休みがとりにくい

「保育士は土日休み」というイメージがある人もいるかもしれませんが、それは幼稚園と混同していて間違いです。

保護者のニーズが高まった事で、土曜日は延長保育こそ少ないですが、開園している園ばかりです。

また、日曜日に関しては休日ではあるものの、行事の前は事前準備で駆り出されたり、地域密着型の保育所の場合は地域行事に参加する事が求められるなど、休日という名目でやらされる仕事も多いです。

また、保育技術の向上の為に研修などもあり、全ての保育士が出られる様にと仕事が終わった19時開始や、日曜日に開催されるものが非常に多い。

しかし、それに対する代休はもちろんありませんし、『年休は実質90日程度』とかなり少ないのが保育士離れの原因となっています。

また、有給も職場によっては取りにくい雰囲気を出している保育所もあり、そういった点でも保育士をやろうとする人が減少している理由でしょう。


保育士不足になる原因⑥ 人事評価制度がない、頑張りが評価されない

保育所の運営はかつかつな所と、営利目的の所と別れていますが、いずれも『人件費を安くしたい、抑えたい』と、基本給を低く設定している保育所も多いです。

また、昇給自体があまり行われておらず、公立の保育士が年々昇給するのに対し、私立の保育士は5~6年目でやっと初めての昇給を迎えるという人も少なくありません。

そういった人事評価制度がない事で、『どれだけ頑張っても評価して貰えない』と保育士離れを加速させています。

 

保育士養成施設の卒業生がどれだけ保育士になるか知ってますか?

養成学校の卒業生が保育士になる割合はご存知ですか?

養成学校は保育士を目指して入学した人が集まる場所なので、全員が保育士として就職する、または保育士資格を活かした職種に就いてもおかしくありません。

 

しかしながら、実際は全体の『83.2%』が保育士として就職し、残りの『17.8%』は一般企業などに就職していきます。

しかも、83.2%の内の保育所に就職する割合は『51.7%』で、全体から考えると約半分しか保育所には就職しないのです。

これは非常に問題視すべき重要な点だと思いますが、『保育士としての就業を希望しない理由は何なのでしょうか?』

 

保育士として就職しない理由は様々ですが、

「実習先で指導した保育士が、たまたま理不尽な要求をして来る人だった」

「現場で保育士の大変さを実感した」

「資格職だからと養成学校に入ったものの、やはり自分には向かないと思い知った」

など、保育士になりたくて養成学校に入っても、実習やアルバイト先で心が折れてしまう人も多いです。

こうした現場での経験が、保育士不足を加速させてしまっているのです。

 

保育士不足の解消の鍵となる『潜在保育士』の存在

保育士不足解消のキーマンと考えられているのが、『潜在保育士』の存在です。

潜在保育士とは、保育士資格を持っていながらも、保育士として働いていない人の事で、この方たちを如何に保育士として復帰してもらうかが保育士不足解消のカギと考えられているのです。

厚生労働省のデータでは、潜在保育士の75%が『配偶者あり』と回答し、全体の69%が『子ども有り』と回答しています。

また、潜在保育士を年代別に見てみると、

潜在保育士年代別データ

  • 20代:   9%
  • 30代: 24%
  • 40代: 31%
  • 50代: 28%
  • 60代:   6%

という内訳になっており、30代から50代にかけて潜在保育士が多いことが分かります。

結婚や出産を機に退職したり、別の理由で退職し、そのまま復帰しないケースが多いのでしょう。

 

資格がありながら保育士として働かない理由には

『自分の求める条件で働かせてもらえる求人がない』

『家庭と両立する自信がない』

『就職に対して不安がある』

『保育士に就職しなければならない必要性を感じない』

という意見が多く、40代以降になると、育児を終えて金銭的にも困っておらず、「業務と給与の釣り合っていない保育士をわざわざやる必要がない」と思っている人が多いのが潜在保育士の実態です。

しかし、保育士不足問題やそれに伴う待機児童問題を解決するには、新たに資格を取る保育士の確保もそうですが、今保育士資格を持っている人に戻ってきてもらうことが保育士確保には重要です。

そのためには、保育士の賃金を上げるなど、国家施策としての対策が今後は必要になってくるでしょう。
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実際、保育士としては働きたくないと思っている問題が解消されれば、保育士に復帰したいという人は『63.6%』もいることがアンケート調査で分かっています。

保育士不足やそれに伴う待機児童問題の解消は、保育士がいなければ保育所は運営できないので、まずは保育士の確保が最優先です。

保育士として働いてくれる人材がいなければ施設を増やしても意味がありませんからね。

そして、待機児童問題や保育士不足の解消には、保育士の処遇や環境を改善し、『保育士として働きたい』と感じる人を増やす事を同時に考えていくことが必要不可欠になります。

賃金や働き方など保育所だけでなく、国からのバックアップが保育士確保には必要でしょう。

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